9月30日(水)羽生名人「脳の世紀」シンポジウムで激白す

 こんにちは。終日霧雨、降ったりやんだり。気温は20度前後
だが、湿度はかなり高い気がした。ああ、もう晦日かあ。10月
に入ったらあっと言う間に年末になりそうな希ガス










 羽生名人の講演を聞いてきた。こういう日々修羅場って人
の話しを聞くのは何よりも為になりますお。それに羽生さんは
永世名人になられても少しも驕ることなく、いつも自然体で謙虚
だから見ているだけでも清々しいですぅ。でも勝負の場で相手を
見切ったときには、得意の羽生ニラミが出るっつうから本性は
勝負師なんでしょうねぇ。










 以下、抄録
・将棋のプロというものは何百手も何千手も読んで、その中から
最善手を選んでいると思われてますが、ぜんぜんそんなことは無
いです。読めるのはホンの一かけらで10手先も難しい。常に
想定外の事態が起こります。暗中模索、五里霧中のほうが多い。








・しかも碁と違って、マイナスの選択肢が多い。全体の駒組を最
善の場所に置くという観点からは、パスしたほうがイイ局面が
多くなります。だいたい各手番で80手くらいの指し手がありま
すが、調子のイイ時は沢山の手が読めるよりもスパっと見切れる
方が大切ですね。プ (長考は費やした時間が勿体無いからと
泥沼に嵌ることが多いです。諦めは早いほうがイイ。)








・将棋の記録とかデータでいえば年間2000局とか、わたし
個人の累積でも1000局とか対局はありますが、全部覚えて
いるかというと全然覚えていません。ただある局面を見せられれ
ば、自分が過去に指した局かどーかは分かります。自分の文章
が識別できるようなものです。








・最近はパソコンのデータベースとかになっていてわたしも良く
見るんですが、早いときは1分くらいで早送りでわたしも見れる
んですが、このやり方は1時間くらいすると忘れているケースが
多いから、大事な棋譜はちゃんと将棋盤を出してしっかりと並べ
るようにしています。だから眼から入ってくる情報も大事だと
思ってます。形とか指し手のリズムとかで沢山の棋譜を覚えて
いけるってのもあります。ただ以前覚えたての幼稚園児の指し手
を解説するのがありましたが、これは全く覚えられませんでした。
想定外の手が多いとダメですぅ。









・ある程度の形とか法則性というのも大事だと思います。今は
棋譜のデータの分析とか研究がすごく大事で、それをやらない
とスタート・ラインに立てないと言う感じで、以前の将棋界の
ように分からなくなってデータとか定石が通じないようなとこ
ろから始めてその人の実力とか真価が問われるというような感
じだったんですが、今はそのやり方だと最初の段階から劣勢に
なってしまいますぅ。相撲の立会いによく似ています。どんなに
力のある人でも最初の1秒で両回しをしっかり押さえられたら
身動きできなくて勝負にならないってなところがあります。









・でも基本的な知識とか定石とか定法ってのを押さえておけば
その部分で差がつくということはない。プロなら誰でもアクセス
できるので、そのデータの部分で差がつくということはない。
分からない局面とか羅針盤の無いところが問われています。前と
似ているようで似ていないのはデータの量が並ではないから。











・しかし逆に先入観が新しいアイデアをサプレスするってことは
あります。ここ15年くらいで色々な新しい戦法(昔はダメだと
された高飛車戦法とか)が出てきました。最初は違和感を感じ
ます。でも具体的な結果がでるとみんなその戦法を研究します。
今は戦術の移り変わりってのは非常に速くって昔覚えた定石戦術
は知識としては役に立ちません。しかしその知識を得るときに
費やしたプロセスはとても役に立ちますぅ。










・新しい戦法をマスターするとか新しい作戦を考えるとか言う
ときの「不安」を克服するときにその過去のプロセスが役に
立ちますぅ。「八面玲瓏?」心中にわだかまりがない澄み渡った
心境。不安な気持ちとかが無いまっさらな気持ちが大事かな、と
良く色紙に書きます。だが中国では八方美人でもある。











・頭の中をまっさらにするのはとても大切だと思ってます。頭が
イッパイ詰まっていたら何も閃かないとか思い浮かばない状態に
陥ります。だから忘れることはとても大切です。勿論対局のミス
感想戦で反省するのは大切ですが、それが終わったら全部忘れ
るのがグー!移り変わりの速い時代は忘れるのと覚えるのとは
等価ですぅ。最近はあまり努力しなくてもドンドン忘れていくから
楽だ(爆笑)。











・対局をしていて色んな手を考えたりするのは皆頭の中でやって
ますが、一回で何十手か先の局面を明確に頭の中で思い描くって
相当難しいことなんです。駒を動かすんなら簡単なんですが、頭
の中だけでやるってのは。だから何回も何回も繰り返して正確な
局面を把握するってことが大事なんれすぅ。つまり大体覚えて
おけばイイってことは公式戦の真剣勝負の中ではいかないんで、
100%正確にその局面を思い描かなくては負けるんで、それは
一回では行かないような気はしてます。タマに目隠し勝負っての
を余興でやるんですが、それは単に眼をつぶるのとは全然ちげー
よ。その時は、四分割くらいして覚えてるってのが多いですぅ。












・一遍に三人とか五人とか出来る人は何でだろ?佐藤さんとか。
そこはかなり個人差がある希ガス。沢山キチンと覚えていくと
いうのと、創造していくこととは違うような希ガス。将棋の実力
の両輪のような希ガス。う〜〜ん、だいぶガスが充満してきたな。











・ホントの新手ってのは3年に一回とか五年に一回とかしか出ない。
あとは今まで積み上げてきたデータとか定石とかに新しくもう一歩
付け加えるくらいのもの。ホントに将棋ってのは形によっては深く
深く研究されてますが、前は結論が出しやすい所から調べられて
たのが、最近は幅広く色んな可能性が調べられてる。今は情報が
早くって昔なら2ヶ月もった新手が今は1回しか使えない、1週間
で研究されてしまうからね。(著作権とかないからね。すぐ真似さ
れる。)








・何十時間とか掛けてあたらすい一手を見つけたとしても、すぐに
広まってしまうから、使えるのは1回だけというのはあります。
新しい手を見つけるってのと、それの対策を考えるってのは前者が
1万倍むずかすい。独創的とか創造的な将棋を指す人たちって、
カワイソ。今は創造するってのは大変な時代ですぅ。検索君。








升田幸三って先生は、今にして思えば偉大だ、奇人変人だと思っ
てたが実は独創的な人だった。タマタマ升田先生の棋譜を大量に
集めて研究したら、あまりの革新性と現代的な感じに驚愕した。
昭和30年代に現代的なセンス(立会いでパッと立って両回しを
引き付けてしまうというような機敏な動き)持ち合わせていた。
当時はただ独りだけなんで、そういう誰も気がつかなかった。
あと個性がつお杉て、そっちの方に目が行ってしまって、本質的
な凄さ、時代の先を行ってたとこ気が付かなかった。










・今の将棋は、細かい工夫が多い。最初の10〜20手で工夫し
ているとこが多いですぅ。歩を突くのを一手づらすとか金を動か
すのを遅らすとか、チョトづつ工夫する。画期的な新手順も数の
力で沢山の対局の中で自然に道ができて行くのが多いですぅ。
独創性を発揮するのは棋士にとっても難しい時代だぁ。








・決まった形で個性を出すってのがむずかすい時代だぁ。60手
とか70手とかまで研究がされてる時代に(将棋はだいたい百
手で片がつく)個性を出すってのはむずかすい。(え〜〜!凄い
本音バリバリぢゃん。)








・でも、急に180度変化するのも無謀だ。1〜2年で最終的に
違う場所にいるのが理想。プロで23年だが、まだ発見がある。
これが大きなモチベーション。長い年月を掛けて作られてきた
もんだから精巧に作り上げられていると実感した。昨年始めて
後手の方が勝ち越した。今まで先手番のほうが53%くらい有利
だった。今までになかった。それだけ今は変化の時代。長く深く
研究しているときは先手が有利。データもなく定石も確率されて
ないときは後手もチャンスがある。先手後手はあまり気にならな
いけどね。振り駒?結構将棋は平等です。









・今は脳の研究にも目覚しい進歩があるけど、まだまだこれから
色んなことが見つかるのではないかと期待してますぅ。どもども。










将棋の作業はバラバラなジグソーパズルがあるとき一気に姿を
現すってなとこはあります。それと棋士集団の習性を敢えて言え
ば、「考えて考えて、納得してから動く」ってなところは日常で
も窺えますぅ。