2月21日(木)科学は進歩すれども、人生の質は向上したのかっ

 雲の多い冬晴れ。2℃〜7℃。今が底ならイイな。もう梅がほころんでいまふ。



 知るとヤルでは大違いつうのは人体を対象としたクスリ作り(創薬)の世界では顕著でやんすね。創薬は病態の原因となるタンパク質に結合して、その効果を減じたり増やしたりする化学物質を探索する作業なんすね。試験管の中(イン・ヴィトロ)で化学物質の効果を試したり動物実験をしたりしてかなーり効果が期待できそうだと、次の人体での治験(clinical trial)に進みます。しかし3ステップの治験を通過する試薬はたった8%くらいなんす。事前のイロエロなトライアルにも係わらず92%もの薬剤が陽の目を見ずに消え去って行くと。これが材料費はさして高くないのに薬が高価なゆえんです。
 クスリが効果を発揮するには、経口摂取された成分が胃で分解されずに小腸で吸収され、血液に乗って対象組織運ばれ、一定期間肝臓で分解されずに濃度を保つという一連の薬物動態が要求されまふ。しかるに試験管や実験動物では、種の壁や組織への移行性の違いで人体と解離が多いのです。また毒性や薬剤間の相互作用、遺伝的な個人間変動や病態時の変動など攪乱要因もたくさんありまふ。これらを乗り越えて人体治験前にいかに試薬を絞り込むかが創薬のポイントとなりまふ。ふむ。
 副作用の問題は特にクリティカルですねぇ。なにしろ100万人に効果ありとても数人に被害が出れば認可は下りません。(この辺は個人のリスクヘッジで試させてもイイような気もしますが。)また遺伝的なバラツキは薬効に20倍もの差を付けますから、これも副作用の原因になりまふ。ふつう治験は多くても数千人単位で行いますが、百万分の一などという低確率の副作用はすり抜けてしまうことも多いです。
 しかしここで立ち上がったのが最新の創薬システム@仮想治験(virtual clinical trail)です。試験管の中で集めた薬効、膜透過性や親水性、代謝速度による血中濃度を10万人単位でデータベース化し、更に非侵襲試験(人体を痛めないPETなどを使った外部からのテスト)により対象組織に到達できる濃度も計測し、これらに基づいたコンピュータモデルを作成して、事前にシミュレーションするのれす。これらには薬物動態学者、毒性学者、薬理学者、有機合成化学者とコンピュータサイエンティストなどの総合力が必要になりまふ(また、ずいぶん細かく分かれてるな)。
 このようにして治験通過率が16%にでも上がれば薬の値段は半値になるんすから日本の医療費も激減でけまふ。ここで拙者が言いたかった主旨は出尽くしたと思うでしょ?ところがさに非ず。斯様にして癌や感染症生活習慣病などが一掃されたら、如何なる結果が招来されようかっ?そのようなことは薬学研究者の関心範囲に非ず。目先のことに一心不乱なるのが研究者、その結果を冷静に眺めるのが社会改革者(含、本来の政治家)なのれすから、これからの超超高齢化社会を見据えてQOD(クオリティ オブ デス)の研究にも熱意を注いでほすいもんだ。ねえ、アッソー殿下さん。